5G無線の基本をズバッと解説!ー第1弾 高速大容量通信ー

5G無線の基本をズバッと解説!ー第1弾 高速大容量通信ー

―はじめに

5Gでは、従来の4Gと比べて、高い周波数を使用することはご存じでしょうか。
本コラムでは、高速大容量を可能とした技術について、周波数に着目して説明します。

―5Gで使用する周波数とは

5Gは2つの周波数帯「Sub6」と「ミリ波」を使ってデータ通信を行います。
4Gは3.60GHz未満の周波数帯ですがSub6は3.6GHz~6GHzの帯域となっており
一方のミリ波ではかなり高い周波数である28GHz~300GHzの帯域を利用します。

上記の画像をご覧頂くと分かるように、従来の4G周辺の周波数は様々な用途の無線システムに使用されています。
その為、各キャリアに割り当てられた帯域幅は4Gで最大20MHzでしたが、
5Gで使用されるSub6周波数帯では100MHz帯域幅、ミリ波(28GHz帯)では400MHz帯域幅が割り当てられました。

―帯域幅が広がることのメリット


「帯域幅」が広くなればデータ通信の道幅が広くなり、より多くのデータがスムーズに行き来できるようになる、と考えて頂いて構いません。
つまり、「帯域幅」の観点でいえば4GよりもSub6、Sub6よりもミリ波の方が大容量通信を行いやすいとご理解頂けると思います。

―Sub6とミリ波の普及状況

現在のSub6のエリア拡大については、緩やかに進んでおり、2023~2025年にかけて全国的に広がる見込みです。
一方のミリ波のエリアについては2021年3月末の段階で使えるエリアは僅かとなっています。

出典)NTT docomo「5Gのサービスエリア」
上図ではオレンジ色(図全体)が4G利用可能エリアとなっており、赤色がSub6利用可能エリアを示しています。
ではミリ波はと言いますと図上に「m」のピンが刺されておりますが、こちらがミリ波の利用可能エリアです。
Sub6はある程度広域に展開しているのに対し、ミリ波は地図上に色塗りが難しいほど限定的なスポット利用に留まっています。
何故ミリ波のエリア拡大はこれほどまでに進まないのでしょうか。それはミリ波という高い周波数ゆえの“電波の特性”が関係しています。

ー電波の特性

ここでは、周波数が高くなると障害物の影響を受けやすく、電波(電力)が減衰しやすくなるという特性について、“Sub6”と“ミリ波”を比較し紹介します。

基地局から電波を放射した後に、電波(電力)が仮に-90dBという減衰量まで劣化する距離を算出した場合、Sub6では約150m、ミリ波では約30mの地点となりました。
同じ5Gの規格であるSub6とミリ波においても約5倍近い差が出る結果となります。
これを実際の運用で想定した場合、Sub6は1つの基地局で半径約150mの範囲をカバー出来ますが
ミリ波では半径約30mの範囲のカバーとなり、周波数が高くなるとカバーエリアが狭くなります。

ではなぜ周波数が高くなると、障害物の影響を受けやすくなるのでしょうか。


電波というのは送信アンテナから放射された際にある程度の広がりを持って空間を伝搬していきます。
この広がる幅は電波の周波数によって変化し、周波数が低い程広がりも大きくなります。
この時、送信アンテナと受信アンテナの間を結んだ線に対して回転楕円体という形状で広がり伝搬していきます。
この電波の広がった空間の事を「フレネルゾーン」と表現します。送受信アンテナ間を約20mでかつその中心で計測した場合
SUb6で0.6m、ミリ波では約0.2mとなり、フレネルゾーンの大きさは約3倍となります。
仮にフレネルゾーンの中に同じ大きさの遮蔽物が存在した場合、Sub6はある程度遮蔽物に対して回り込んで伝搬していくことが可能ですが
ミリ波は伝搬経路が遮られてしまい回り込む事が出来ず、伝搬経路を確保する事が出来なくなります。

上記の理由からミリ波を屋外などで実際に移動体通信に使うというのは、かなり技術的にはチャレンジングと言えるでしょう。
しかし、ミリ波を屋外で活用する為の技術も開発されました。それが「ビームフォーミング技術」です。

ービームフォーミング技術とは


ビームフォーミング技術では非常に多くのアンテナ素子を使用することで実現されます。
4Gのアンテナ素子は約4個程度だったのに対して、ミリ波では最大256個ものアンテナ素子を使用することによって
特定の方向に向けて集中的に電波を発射し、より遠くまで届けられるようになりました。
ビームフォーミング技術により「ミリ波」を活用出来るようになったのです。
電波の性質上、電波の直線性が弱いと多方向に拡散して飛びますので、様々な位置にある通信機器と繋がりやすくなる特徴があります。
ミリ波のような直進性の強い周波数は特定位置に滞在している相手と高速に大容量で通信が可能になり、無駄に電波を拡散させないことから省エネルギーにも貢献出来ます。

ーローカル5Gの今後ついて


まず「ローカル5G」のおさらいですが
携帯電話事業者(以下MNO)による全国向け5Gサービスとは別に、地域の企業や自治体等の様々な組織が自らの建物や敷地内で、柔軟に5Gネットワークを構築し利用することが可能となる仕組みです。
つまりローカル5Gとは、MNOが使用しているのと同等の電波を、限られた施設内等で独占的に利用することが可能なプライベートな5Gシステムです。

将来的にローカル5Gの通信方式で使用される周波数については、目的に合わせて「Sub6」「ミリ波」を選択するようになると予想されます。
「Sub6」は利用可能エリアの広さから全体をカバーする役割を担い
「ミリ波」は与えられた豊富な帯域幅を生かして、トラフィックが大きく要求される場所で局所的に利用する運用方法などが想定されております。
「Sub6」「ミリ波」それぞれの電波性質を理解した上で、ニーズに応えられるような無線エリア構築が今後必要になるでしょう。

ー最後に

今回は何故5Gでは大容量通信が可能なのか。また、
周波数に注目した電波の特性や電波を扱うための技術について説明致しました。
5Gには「Sub6」と「ミリ波」があり、それぞれ異なる電波特性を持つことがご理解頂けましたら幸いです。
今後ローカル5Gを考える際には周波数の側面にも注目してみては如何でしょうか。

※[1] 自由空間では電波は減衰している訳ではなく、同じ実効面積のアンテナで受信すると距離が遠くなるほど受信電力(電力密度)は減っていくので、障害物の無い空間において、距離の2乗に反比例する「自由空間伝搬損失」という概念を導入して数式化されるのが無線業界では用いられるようになった。

※[2] dB:信号の“電力の比”を対数で表す単位で増幅度、減衰量などの表現に用いられる。
誤解しやすい単位としてdBmがあるがdBmは、1(mW)=0(dBm)とした“電力”の単位。
図はあくまでも“減衰量”を軸としており、“電力”を比較している訳ではないので注意が必要。